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9月8~9日、首都圏で記録的暴風となった台風15号について
はじめに
台風15号は2019年9月9日5時前に千葉市付近に上陸し、関東各地で記録的な暴風となりました。アメダス千葉では、最大瞬間風速57.5m/sを記録し、観測史上1位となりました。風にあおられるなどして、首都圏および静岡県で少なくとも死者1名、重軽傷者90名以上の人的被害が発生しました(9月12日時点、総務省調べ)。千葉県市原市ではゴルフ練習場のポールが倒壊して民家に直撃したほか、君津市では鉄塔2基が倒壊するなど、各地で倒木や建物損壊などの被害がみられました。また、大規模な停電や断水も発生し、現在も懸命の復旧作業が続いています。
鉄道では、東海道新幹線やJR在来線、一部の私鉄で8日夜から順次運転を取りやめました。9日始発からは首都圏すべての在来線や多くの私鉄で計画運休が実施されましたが、一部の路線では倒木や飛来物などの影響で運行再開が予定より遅れ、通勤や通学に影響が出ました。空の便では、8~9日の2日間で300便以上が欠航し、高速道路では首都高速道路や東京湾アクアラインなど、首都圏各地で通行止めが相次ぎました。成田空港では、都心部につながる交通機関が一斉に運休したことで、10日にかけて1万人以上が施設内で夜を明かしました。
1-1.被害状況:停電被害の報告
9月9日は静岡県や関東南部などで、一時93万戸を超える大規模な停電が発生しました。当社では停電の状況を詳しく調べるため、9日1時から10日11時にかけて、全国のウェザーリポーターに停電の様子について質問し、「停電していない」「完全に停電している」「一瞬停電した」の3択から回答していただきました。13,473件の報告をマッピングしたところ、台風が通過した大島や三浦半島、千葉県、茨城県南部の地域で被害が多く見られました(図1)。台風の進行方向に対して右側に位置する全てのアメダスで最大瞬間風速30m/s以上が観測されており(図2)、大規模な停電被害が発生した地域と概ね一致していることがわかりました。
1-2.被害状況:ウェザーリポート
9月8から9日にかけて、記録的な暴風となった関東南部や茨城県から多くの被害や雨風のウェザーリポートが寄せられました(東京都5,758件、神奈川県4,719件、千葉県3,041件、茨城県1,039件)。9日の通勤時間帯には、電柱の転倒や倒木によって道路が塞がれている様子や、電車の運休や入場規制による駅の混乱の報告が相次ぎました(図3)。
図3:ウェザーリポーターから寄せられた報告
2.台風の経路・特徴
台風15号は2019年9月5日15時に南鳥島近海で発生しました。その後、海水温の高い海域を北西に進みながら発達し、7日6時に強い勢力となり、8日18時頃から北北東に進路を変え、一時非常に強い勢力まで発達しました。9日3時前に三浦半島を通過し、5時前に中心気圧960hPa、最大風速40m/sの強い勢力で暴風域を伴ったまま千葉県千葉市付近に上陸しました。台風は上陸後も勢力を保ったまま北東へ進み、8時頃に茨城県沖へ抜け、10日15時に日本の東の海上で温帯低気圧に変わりました(図4)。
今回の台風が非常に強い勢力で関東地方へ接近した要因として、第一に海水温の高い海域を通過したことが挙げられます。台風が通過した日本の南の海上では、海水温が平年よりも1〜2度高くなっていました(図5)。台風が海水温の高い海域を通過し、その際に大量の水蒸気が供給されたことで発達したと考えられます。
第二に、先行して北上した台風13号や前線も影響したと言えそうです。台風が本州付近まで北上すると、大陸の乾燥した空気の流入により、勢力が弱まることがあります。しかし、今回は中国大陸で温帯低気圧に変わった台風13号やその南側に形成された前線にブロックされ、乾燥した空気が台風15号周辺へ流れ込みにくくなっていました(図6)。これらの要因により、台風15号は非常に強い勢力で接近したと考えられます。
3-1.強風の状況
8~9日は台風が上陸・通過した首都圏を中心に、記録的な暴風となりました。アメダスによると、千葉で最大瞬間風速57.5m/s、木更津で49.0m/s、成田で45.8m/s、羽田で43.2m/sの猛烈な風を観測し、19箇所で観測史上1位の記録を更新しました(表1)。
台風の進行方向の右側は危険半円とも呼ばれ、台風の回転による風向きと進行方向が一致し、台風本来の風に移動速度が加わるため、左側よりも強い風が吹きます。今回の台風15号でも、その傾向が顕著に観測され、最大瞬間風速30m/s以上の猛烈な風を観測した地点は、台風の進行方向からみて右側に広がっていることがわかりました(図7)。
表1:8~9日に日最大瞬間風速が観測史上1位となった地点
都道府県 | 市町村 | 地点 | 最大瞬間風速 (m/s) | 記録更新日時 | 統計開始年 |
東京都 | 神津島村 | 神津島(こうづしま) | 58.1 | 9月8日 21:03 | 2009年 |
千葉県 | 千葉市中央区 | 千葉(ちば) | 57.5 | 9月9日 4:28 | 1966年 |
東京都 | 新島村 | 新島(にいじま) | 52.0 | 9月8日 23:38 | 2009年 |
千葉県 | 木更津市 | 木更津(きさらづ) | 49.0 | 9月9日 2:48 | 2008年 |
東京都 | 三宅村 | 三宅坪田(みやけつぼた) | 48.4 | 9月8日 22:12 | 2009年 |
静岡県 | 賀茂郡東伊豆町 | 稲取(いなとり) | 48.3 | 9月8日 23:17 | 2008年 |
千葉県 | 成田市 | 成田(なりた) | 45.8 | 9月9日 5:36 | 2009年 |
東京都 | 大田区 | 羽田(はねだ) | 43.2 | 9月9日 3:27 | 2009年 |
神奈川県 | 三浦市 | 三浦(みうら) | 41.7 | 9月9日 1:33 | 2008年 |
千葉県 | 山武郡横芝光町 | 横芝光(よこしばひかり) | 37.5 | 9月9日 5:23 | 2008年 |
千葉県 | 香取市 | 香取(かとり) | 37.0 | 9月9日 6:19 | 2008年 |
茨城県 | 龍ケ崎市 | 龍ケ崎(りゅうがさき) | 36.9 | 9月9日 5:16 | 2008年 |
茨城県 | 鹿嶋市 | 鹿嶋(かしま) | 36.6 | 9月9日 6:55 | 2008年 |
千葉県 | 鴨川市 | 鴨川(かもがわ) | 35.6 | 9月9日 3:32 | 2008年 |
千葉県 | 茂原市 | 茂原(もばら) | 34.3 | 9月9日 4:43 | 2008年 |
千葉県 | 市原市 | 牛久(うしく) | 33.9 | 9月9日 4:23 | 2008年 |
千葉県 | 佐倉市 | 佐倉(さくら) | 33.9 | 9月9日 5:01 | 2008年 |
千葉県 | 君津市 | 坂畑(さかはた) | 33.6 | 9月9日 3:17 | 2008年 |
茨城県 | 鉾田市 | 鉾田(ほこた) | 29.7 | 9月9日 6:24 | 2008年 |
台風通過後の10日11時から11日24時にかけて、ウェザーリポーターに振り返りのアンケート調査を実施しました。“台風が通過した8日夜〜9日朝は眠れましたか?”と質問し、「普段通り眠れた」「全然眠れなかった」「時々目が覚めた」から選択して回答していただきました(図8)。7,757件の報告をみると、眠れなかった人の割合は、千葉県が最も多く86.0%で、次いで神奈川県78.5%、茨城県71.0%、東京都70.3%となりました(表2)。関東南部と茨城県では、7割以上の方が眠れない夜を過ごしていたことが明らかになりました。
「全然眠れなかった」という回答が多かった地域の多くは、未明から朝にかけて10m/s以上の風が継続していました。特に沿岸部では、最大瞬間風速25m/s以上の風が合わせて3時間以上観測されており、暴風による騒音が継続し、眠りを妨げていたと言えそうです。
表2:表2:“台風直撃時は眠れた?”の都道府県別の調査結果
(眠れなかった人の割合は「時々目が覚めた」を含む)
普段通り 眠れた | 全然眠れ なかった | 時々目が 覚めた | 計 | 眠れなかった 人の割合(%) | |
茨城県 | 124 | 97 | 206 | 427 | 71.0 |
栃木県 | 154 | 29 | 115 | 298 | 48.3 |
群馬県 | 179 | 10 | 80 | 269 | 33.5 |
埼玉県 | 354 | 188 | 526 | 1068 | 66.9 |
千葉県 | 181 | 563 | 545 | 1289 | 86.0 |
東京都 | 717 | 527 | 1169 | 2413 | 70.3 |
神奈川県 | 322 | 502 | 671 | 1495 | 78.5 |
静岡県 | 270 | 34 | 99 | 403 | 33.0 |
3-2.強風の要因
アメダス千葉では9日4時28分に57.5m/sの最大瞬間風速を記録しました。この時、レーダーの降水強度では台風の目がはっきりと見られ、台風の目が千葉に接近していました(図9)。最大瞬間風速が観測された4時30分頃には「壁雲(アイウォール)」と呼ばれる台風の目を囲む降水強度の強い部分が千葉にかかってきていました。一般に、目を持つ台風の風速は壁雲付近で最大になることが知られています。今回千葉で観測された50m/sを超える猛烈な風は壁雲の通過によるものと思われます。
また、その約20分後の4時47〜48分には気圧が最も低い965.1hPaになり、瞬間風速は20m/s前後まで落ちました(図10)。これは千葉が台風の目に入ったためと考えられます。
ウェザーニューズ独自の観測機「WITHセンサー」の海面気圧分布を見ると、台風の中心付近から半径40km程度の範囲で7hPa/10km以上の大きい気圧傾度になっていました。さらに、中心から半径20km程度の範囲では9hPa/10km程度の非常に大きい気圧傾度でした(図11)。大阪などに暴風をもたらした平成30年台風21号では大阪での気圧傾度が約5hPa/10kmであり、今回はそれ以上に大きい気圧傾度でした。この大きな気圧傾度が今回の台風の中心付近で記録的な強風になった要因と推察されます。
まとめ
9月9日、台風15号は千葉市付近に上陸し、首都圏に記録的な暴風をもたらしました。この強風により、倒木や建物の破損、大規模な停電などの被害が発生しました。また、多くの鉄道会社が計画運休を実施するなど、交通機関にも大きな影響を及ぼしました。
台風15号は上陸時も強い勢力を保ち、暴風域を伴っていました。これは、台風15号の通過した海域の海水温が平年よりも高かったこと、先行して北上した台風13号や潜在的な前線の形成により大陸からの乾燥した空気が流れこみにくくなっていたことが要因として考えられます。台風が上陸・通過した関東南部では観測史上1位となる暴風となった地点が多く、アメダスの千葉では最大瞬間風速57.5m/sを観測しました。最大瞬間風速30m/s以上の猛烈な風となった範囲は台風の中心付近と進行方向の右側に広がっており、大規模な停電が発生した地域はこの範囲と概ね一致していると言えそうです。
アメダス千葉で50m/sを超える暴風が観測された時刻には、壁雲と呼ばれる雲がかかっており、最も風が強い領域に入っていたことがわかりました。さらに、WITHセンサーの海面気圧分布を見ると、台風の中心から半径20km程度の範囲で気圧傾度が非常に大きく、その値は大阪で大規模な停電が発生した平成30年台風21号の時よりも大きくなっていました。
台風シーズンはまだこれからも続きます。秋に日本へ接近・上陸する台風は移動速度が速く、雨だけでなく風による被害も大きくなることが多いため注意が必要です。ウェザーニューズは、台風による雨風や高波、交通への影響を予測し、一人ひとりの減災・防災につながる情報をいち早く発信していきます。