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9月4日、近畿地方に暴風や高潮をもたらした台風21号について
はじめに
2018年9月4日、台風21号は「非常に強い勢力」で徳島県南部に上陸し、1961年の第二室戸台風と同じような経路を辿って近畿地方を通過し、日本海へ抜けました。台風が「非常に強い勢力」で上陸したのは、1993年の13号以来、25年ぶりのことで、記録的暴風と第二室戸台風を上回る大規模な高潮をもたらしました。
台風の接近、通過に伴い広範囲で強風となり、特に近畿地方を中心に最大瞬間風速50m/sを超える猛烈な風が観測されました。この風の影響で、各地で屋根や窓ガラスの破損、近畿地方や東海地方を中心に大規模な停電が発生するなど多くの被害が発生しました。
また、大阪湾沿岸では高潮が発生し、大阪で329cm、神戸で233cmという過去最高の潮位を記録しました。高潮の影響で、関西国際空港では滑走路が浸水して閉鎖され、加えて連絡橋の破損により最大約8,000人が孤立状態となりました。他にも、高潮の影響でコンテナが流出したほか、浸水で車のバッテリーがショートし、約100台が炎上するなど様々な被害が発生しました。
鉄道では、東海道新幹線や山陽新幹線および、各地のJR在来線や私鉄で運転見合わせの影響がありました。道路では、名神高速道路や近畿自動車道など多くの区間で通行止めとなり、空の便も関西発着便を中心に国内線700便以上が欠航となりました。
1—1.被害状況:停電被害の報告
9月4日は近畿地方や東海地方を中心に、200万軒を超える大規模停電が発生しました(関西電力管内で約160万軒(4日17時時点)、中部電力管内で約70万戸(4日18時時点))。4日にウェザーリポーターから寄せられた7,000通を超える停電報告と、風の観測データを重ね合わせたところ、停電は台風の経路の東側に集中しており、特に最大瞬間風速30m/sを超えたところで多く発生していることがわかりました(図1)。
1—2.被害状況:ウェザーリポート
台風が通過した9月4日には、全国のウェザーリポーターから19,255通の報告が届きました。近畿地方からは、風による建物の破損やトラックの横転、ビルのパネル崩落などの強風被害、高潮による浸水などの被害報告を中心に4,857通の報告が寄せられました(図2)。
9/4 14:13兵庫県神戸市 | 9/4 15:56兵庫県西宮市 | 9/4 18:05 大阪府貝塚市 | 9/4 17:18 大阪府大阪市東淀川区 |
2.台風の経路
台風21号は8月28日9時に日本のはるか南東海上で発生し、西に進みながら急速に発達しました。30℃前後の高い海面水温と弱い鉛直シア(対流圏下層と上層の風の差)という台風の発達に適した環境となっており、8月31日9時には「猛烈な勢力」である915hPa(最大風速55m/s)に達しました。その後は、本州の南東側の太平洋高気圧の縁を回って北上し、「非常に強い勢力」である950hPa(最大風速45m/s)を維持しつつ、4日12時頃に徳島県南部に上陸しました。さらに、淡路島付近を通過して、4日14時頃に兵庫県神戸市付近に再上陸しました。朝鮮半島方面からは深い気圧の谷が接近しており、その南東側のジェット気流に乗って台風は速度を上げ、日本海を北東から北へ進みました。5日9時には北海道の北西海上で温帯低気圧に変わりました(図3)。
3.風の特徴
強風による被害が多く見られた近畿地方では、14カ所のアメダスで最大瞬間風速40m/s以上が観測されました(図4)。最も強い風速が観測されたのは関西国際空港がある関空島で、台風21号が最接近した頃の4日13:38に最大瞬間風速58.1m/sを記録しています(表1)。そのおよそ2週間前にも台風20号が同じような経路をたどっており、友ヶ島で最大瞬間風速52.3m/s、関空島で42.2m/sなどの暴風を観測し、トラックの横転や広範囲の停電が発生しました。このときも一部で今回に匹敵するような暴風を観測していますが、近畿地方で40m/s以上の最大瞬間風速を観測したアメダスが5カ所であったことから、今回は台風20号のときよりも広い範囲で強風が吹いたと言えます。近畿地方以外でも日本各地で強風を観測し、78カ所のアメダスで日最大瞬間風速が観測史上1位を記録しました。
強風が広範囲に及んだ理由としては、広範囲の強い気圧傾度(水平方向の気圧差)と移動速度の速さが挙げられます。
台風21号は徳島県南部に上陸し、淡路島付近を経て兵庫県に再上陸した台風20号と非常に近い経路をたどりました。全国3,000カ所に設置した独自観測機器「WITHセンサー」を用いて、台風が兵庫県へ再上陸した際の海面気圧を見ると、台風20号の際には3hPa/10km以上の強い気圧傾度が中心から半径約40kmの範囲に見られ、その範囲を中心に35m/s以上の最大瞬間風速が観測されました。今回の台風21号はより勢力が強かったため、その範囲が半径約60kmとより広くなっていました。一般に、気圧傾度が強いところ(等圧線が混んだところ)では風がより強く吹くので、台風20号よりも今回の台風21号の方が広範囲に強風の吹きやすい状況になっていたことがわかります(図5)。
一般に、台風の経路の右側では台風本来の風に移動速度が加わることで、より風が強くなる傾向があります。実際のところ、最大瞬間風速40m/sを超える強風は台風20号、台風21号ともに経路の右側で観測されており、左側ではほとんど観測されませんでした。さらに、同じ勢力でも、移動スピードが速いほど強い風が吹きます。上陸前後、台風20号は約35〜40km/hの速さでしたが、今回の台風21号は60〜65km/hの非常に速い速度で通過しました。より速く移動したことで今回、台風20号より広範囲に強風をもたらしたと考えられ、その効果は移動スピードの差の約25km/h=約7m/s程度であったと推測されます。
表1:9月4日の最大瞬間風速の記録(近畿、中国、四国、東海、北陸地方で40m/s以上を観測した地点)
アメダス | 日最大瞬間風速[m/s] | 観測時刻 | 記録 |
関空島 | 58.1 | 13:38 | 観測史上1位 |
和歌山 | 57.4 | 13:19 | 観測史上1位 |
室戸岬 | 55.3 | 11:53 | 観測史上1位 |
友ケ島 | 51.8 | 13:14 | 観測史上2位 |
熊取 | 51.2 | 13:40 | 観測史上1位 |
日和佐 | 50.3 | 11:05 | 観測史上1位 |
敦賀 | 47.9 | 15:00 | 観測史上1位 |
大阪 | 47.4 | 14:03 | 観測史上3位 |
セントレア | 46.3 | 14:17 | 観測史上1位 |
彦根 | 46.2 | 14:13 | 観測史上1位 |
南紀白浜 | 45.8 | 11:33 | 観測史上1位 |
神戸空港 | 45.3 | 13:55 | 観測史上1位 |
尾鷲 | 45.0 | 13:30 | 観測史上4位 |
堺 | 43.6 | 13:50 | 観測史上1位 |
川辺 | 42.2 | 12:11 | 観測史上1位 |
神戸 | 41.8 | 13:41 | 観測史上5位 |
風屋 | 41.6 | 12:49 | 観測史上1位 |
枚方 | 40.2 | 14:24 | 観測史上1位 |
台風の通過に伴い関東地方でも強風となり、八王子では最大瞬間風速31.5m/sを記録しました。八王子では4日の夕方に強い風が継続しており、18時頃落下物により4人が負傷する被害が発生しました。また、JR京葉線や東京メトロ東西線などが一時運転を見合わせるなど、鉄道への影響が相次ぎました。
低気圧が日本海を北東へ進むとき、関東地方では強い気圧傾度と中部山岳の地形的影響により、南西寄りの風が強まります。台風21号も4日の午後に日本海へと抜けて同様の気圧配置となり、日本海の台風と南東海上の太平洋高気圧との間で気圧傾度が強まったことで、関東地方で強風が吹きやすい場になりました(図6)。
4.高潮について
台風が通過した近畿地方や四国地方の沿岸地域では大規模な高潮が発生しました。特に大阪湾では最高潮位は大阪で329cm、神戸で233cmに達しました。これは1961年の第二室戸台風の際に記録された大阪で293cm、神戸で230cmという記録を上回り、これまでで最も高い高潮の記録となりました(表2)。今回、過去最高の潮位を観測した地点は6地点に及び、台風の中心付近及び中心の東側に集中しています。また、台風が北東へ進むとともに最高潮位を記録した場所も北東側へ移っていることがわかります(図7)。
記録的な高潮となった要因としては、
1:低い気圧による吸い上げ効果
2:南西からの強風による吹き寄せ効果
3:台風の通過が満潮時刻に近かったこと
の3つが挙げられます。
第一に、台風の中心気圧は950〜960hPa前後と、非常に低い中心気圧を保ったまま接近・上陸しました。この低い気圧による海水の「吸い上げ効果」により、潮位が上昇したと考えられます。
第二に、台風が兵庫県に上陸した14時頃、関空島で最大瞬間風速58.1m/sを観測するなど、大阪湾では南西から南南西の猛烈な風が吹きました。大阪や神戸においては、13:00から14:00の間に風向きが東よりから南よりに変わったタイミングで潮位が一気に上昇していることからも分かるように、この猛烈な風が地形的に南西側に開けている大阪湾に向かって吹くことにより、海水が海岸に吹き寄せられ、潮位が高まった(吹き寄せ効果)と考えられます(図8、9)。なお、第二室戸台風の際にも、大阪で50.6m/sという観測史上2位の最大瞬間風速を記録しています。
第三に、台風が大阪湾付近を通過したのは4日13〜14時頃で、大阪湾沿岸の満潮時刻(大阪 17:10、神戸 17:17)に近く、潮位の高い時間帯に重なりました。潮位が高い状態に加えて第一、第二の要因が重なったことで、潮位がさらに高まったと言えます。
表2:最高潮位を更新した地点(気象庁)
観測地点 | 最高潮位 ※1(標高) | 起時 | これまでの最高潮位※2とその起時(標高) |
大阪 | 329 cm | 9月4日14時18分 | 293 cm 昭和36年9月16日(第二室戸台風) |
神戸 | 233 cm | 9月4日14時09分 | 230 cm 昭和36年9月16日(第二室戸台風) |
御坊 | 316 cm | 9月4日12時48分 | 163 cm 平成26年8月10日(台風11号) |
白浜 | 164 cm | 9月4日13時02分 | 152 cm 平成23年9月2日(台風12号) |
串本 | 173 cm | 9月4日13時20分 | 161 cm 平成26年10月6日(台風18号) |
阿波由岐 | 203 cm | 9月4日12時08分 | 167 cm 平成26年8月10日(台風11号) |
図8:大阪における潮位と風、海面気圧の推移(気象庁、風の矢印は上向きが南風、右向きが西風を示す)
まとめ
9月4日、台風21号は、近畿地方を中心に記録的な暴風と第二室戸台風を上回る高潮をもたらしました。この強風により、トラックの横転や建物の破損、大規模な停電などの被害や、新幹線が運転を見合わせるなど交通への影響が発生しました。台風20号と比べて、WITHセンサーのデータで見られるように強い気圧傾度の範囲がより広いこと、台風の移動速度がより速いことが、広範囲の強風につながったと考えられます。
また、高潮の影響で、関西国際空港の滑走路の浸水、コンテナの流出や車のバッテリーがショートしたことによる火災など、大阪湾沿岸を中心に甚大な被害が発生しました。このような記録的な潮位となった要因として、台風が950〜960hPaという低い中心気圧で接近したことによる「吸い上げ効果」、猛烈な風が地形的に南西側に開けている大阪湾に向かって吹くことによる「吹き寄せ効果」、台風が満潮時刻近くに通過したことが考えられます。